「オーガニックって、自由だ」【後編】トーク & マーケット|清里オーガニックキャンプ2023「地球と遊ぶ、くらしと遊ぶ」開催レポート

 2023年5月20日(土)21(日)の2日間、山梨県北杜市新栄清里キャンプ場で開催された「清里オーガニックキャンプ2023」。昨年2022年に次いで第2回目となった本開催のテーマは「地球と遊ぶ、くらしと遊ぶ」。第1回のテーマである「くらしをひもとく」の先へ、“見たこと聞いたことあるけどやったことないことをとことんやっちゃおう!”というサブテーマのもと、ワークショップやマーケット、ライブステージが広がり、延べ300人もの皆さんが2日間を共にしました!

 ステージでは音楽ライブだけでなく、清里オーガニックキャンプの「肝」とも言える贅沢なトークプログラムも実施。後半では普段はめったに聞くことができない環境教育の分野における権威たちによる貴重なトークやマーケットの様子をお伝えします!

text: 野呂瀬亮
photos: 古厩 志帆、ほか

「オーガニックって何?」徳江 倫明 × 川嶋 直

 1日目の夜には日本環境教育フォーラム主席研究員の川嶋 直(かわしま ただし)さんを聞き手に、一般社団法人オーガニックフォーラムジャパン会長で、東京国際フォーラムで開催された“オーガニックライフスタイルEXPO”などの企画運営を務める、徳江 倫明(とくえ みちあき)さんが登壇。「オーガニックって何?」というテーマでお話をしてくれました。

 「“オーガニック”って何って言われて、簡単に用意できる言葉がないんですよ。」

 有機・低農薬野菜、無添加食材などの定期宅配サービス「らでぃっしゅぼーや」の立ち上げなど、オーガニック業界を牽引し続けてきた徳江さんの意外な回答に聴衆たちは驚きます。

 「本来、野菜などの農産物にしか“オーガニック”の明確な基準はありませんが、コスメやアパレルなどの業界では30年程前からその言葉が常用されているんです。そういった意味で一般的に解釈は曖昧になっているのは事実。とは言えそれがきっかけで“オーガニック”という考えに触れる人が増えているのも事実で、敢えて異を唱えるべきではないと思っているんです。」

 そもそもは高度経済成長期の公害問題がきっかけで有機農業と向き合ってきたという徳江さん。「オーガニック」の定義以上に、消費者が何に価値を置くのかということを見つめ直す必要があると言います。

 「例えば有機農業はビニール栽培と違って、その時期のものしか提供できないし、コストがかかる分値段も安くない。仮に“安さ”や“いつでも手に入る”ことに価値をおく人が増えてしまえば、有機農業の維持が苦しくなるばかりか、更に価格が高騰し、一部の豊かな人にしか手が出せない物になってしまうんです。」

 貧しくて有機野菜を食べられない、ある種の「被害者」自身が、裏返せば環境や自らに対しての「加害者」にもなってしまう。そうした悪循環を食い止めるためにも「らでぃっしゅぼーや」では、美味しさや健康思考を売りにした“集客”ではなく「一緒に有機農業を育てる」という価値観を“伝える”ことに重きを置いているのだと言います。最後に徳江さん自身の今後の抱負を語ってもらいました。

 「本来地球が持っている『森・里・川・海』の健康な循環があれば、肥料などに頼らずとも基礎生産力は向上する。有機の世界には、そんな自然の摂理が詰まっています。近年農業にもどんどん技術革新が起きていますが、僕はあくまでも『種と苗』にこだわりながら、“オーガニック”の本質的な価値を伝え続けていきたいですね。」

 豊かな環境があってこそ有機農業は育まれるし、逆を言えば有機農業が自然との関わり方を教えてくれる。これから先、自分が求め選んでいく「価値」というものの所在を考えさせられる有意義な時間となりました。

「みんなの青春記:人生のターニングポイント」
奥田 直久 × シェルパ斉藤 × 髙野 孝子

 2日目には「みんなの青春記:人生のターニングポイント」と題し、環境省から自然環境局長の奥田 直久(おくだ なおひさ)さん、本年の1月26日に『あのとき僕は: シェルパ斉藤の青春記』を出版した紀行作家のシェルパ斉藤(しぇるぱ さいとう)さん、早稲田大学教授でありNPO法人エコプラスの代表理事を務める髙野 孝子(たかの たかこ)さんの3人から、三者三様の青春群像劇が語られました。

 ご両親の会社が倒産したことをきっかけに、住まいを失ってしまった過去をもつシェルパさん。18歳の時、学校の名簿で自分の住所欄が空欄になってしまった時から、自身の青春は始まったのだと言います。

 「『自由になれた』って思ったんです。自分の未来は白紙なんだって。無くなることって不幸でもあるんだけど、『ゼロになれる』っていうのは、ある意味幸せなことだとも思ったんですよ。」

 そこから2年間のブランクを置いて大学に進学した後、一念発起して『ゴムボートの旅』に乗り出すことに。生活費を稼ぐために自らアウトドア情報誌『ビーパル』にゴムボート紀行連載の打診をしたことが、紀行作家としてのキャリアをスタートさせる大きな転機となったのだそうです。

 続いて若き日を振り返ってくれたのは髙野さん。「常にターニングポイントだった」、そんな言葉もありつつも、中でも大きな転機は学生時代のアメリカ留学だったと言います。

 「学生寮や友達の家に厄介になりながら旅をしていると、色んな生き方をしている人に出会ったんです。その時『何をしてもいいんだ』と思った。と同時に、大学進学など本質的には自分の選択ではなかったなと思ったんです。」

 日本に帰ってきてからも、自分の決断に責任を持つこと、セオリーにとらわれず自由に生きていくこと、それらを強く意識するようになったのだそうです。「無計画でいること」が多くの経験を引き寄せる秘訣なのだと言います。

 フリーランスを貫く自由な二人とは対照的に、長年にわたって国家公務員を努めてきた奥田さん。一度は生物学者を志すも環境庁へ入庁。中部山岳国立公園(上高地)でレンジャーとして奮闘した後、90年代以降、JICAの国際協力事業への参画や在ケニア日本大使館勤務等を通じて世界各国を訪問したり、那覇自然環境事務所勤務の3年間は、奄美・沖縄の離島を飛び回る日々を送っていたそうです。
 
 「元々『すけべ』というか、色々広く浅く手を出すタイプだったんですよ(笑)。自然が好きではあったんですけど、上高地のレンジャーを始めたのも『山に登って稼げるなら』なんて、今思えば不誠実な動機で。そんな時先輩から叱られたんです。『30年も自然を守ってきた山小屋の主人が新参の若造と対等に関わってくれるのは、お前が“環境省”の人間だからだ』って。その時に自分は何か勘違いをしていたなと、置かれた環境で自分にできることを精一杯やろうと思いましたね。」

 現職に着く以前には、サイバーセキュリティ・情報化審議官や財務省長崎税関長などをも歴任してきたという奥田さん。今いる場所に不満を感じることもあるけれど、その場所だからできることがある。「置かれた場所で咲く」そんな想いで、自分に何ができるかを常に考えながら過ごしてきた30年間だったと言います。

 「シェルパ:僕はとにかく『足を運んで、会って、話をする』ことを惜しまなかった。すると繋がりや縁に恵まれて、どうにか仕事も舞い込むようになったんです。旅っていざ船出してしまえば案外楽なもので、どうにかなるようになって行くんですよ。どちらかと言えばそれまでの準備や『初めの一歩』を踏み出すまでが一番辛い。仕事や人間関係もきっと一緒で、その困難を乗り越えることが経験と自信になっていくんと思うんです。」

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 「髙野:北極探検で不安にかられていた私に、先輩が『何かあっても、それは“そういうもの”だよ』とアドバイスをくれたんです。一歩を踏み出す時の障害は自分の『内なる壁』だと思うけど、そんな時はその言葉を思い出すようにしています。『なるようにしかならない』=『やってみなきゃわからない』だと思っていて、こうして人と会ったり初めての体験をすることが、やりたいことや自分の本質に迫る『自分の棚卸し』だと思っています。」

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 「奥田:選り好みしなかったから良かったんだと思うんです。すると必ず『新しい壁』にもぶち当たる。そんな時はたくさんの人に会って、初めて話す先輩にも思い切って助けを求めてきました。僕はきっと『自分で切り開く』というより『運命にしたがっていく』タイプで、自分ではなく人の力を借りて仕事をしてきた。自分の恥をさらけ出したり、『わからない』と言える勇気を持つことで、結果的にいろんなご縁に恵まれたのだと思っています。」

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 貴重な3人の言葉が心の奥にズンズンと刺さってくるようでした。「やりたいこと」とは、「自由」「困難」「自然」、そして「自分」とは。三者三様の青春期から始まったお話ですが、少しずつ何か共通する「本質」が見えてくるような気がします。

 「シェルパ:『やりたいこと』に打ち込むべきだし、たとえそれが10年経って『違う』となったとしても、それは恥でも無駄でもない。旅は思い通りに行かないから楽しいものだし、そんな『もがき』があるから、僕は文章を書いていけるんだと思う。思い通りに行かないことを楽しんで、生きていってください。」

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 「髙野:誰でも今まで培われた何かを持っている。『食っていくために』ではなくて、そういった既に自分の中にある『好きなこと』をやっていけばいいと思うんです。もし無ければ色んな人と話をして、ご縁を漂いながら自分の本質を探していけばいい。どうせ人生思ったようになんか行かないし、なるようにしかならないのだから。」

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 「奥田:壁にぶつかることもあるけど、苦しい気持ちは何かの役に立つ。生きるってフルマラソンみたいなもので、競争ではなく自分との闘いなんです。立ち止まったり休んだり、でも一歩でも前に進んでゴールを目指す、人生ってそんなもんです。雑草という草はない。きっとどんなものにも何かしらの役割があると思っています。」

 最後に会場に足を運んでいる学生たちや、これから人生を切り開いていく子どもたちにメッセージが送られ、全てのトークプログラムが終了となりました。どれも学び豊かで貴重なお話ばかりでした。ご登壇いただいた皆様、本当にありがとうございました。

くってねてあそんだ!
そよ風抜ける「おいしいくらし」

 たくさんお勉強をするとお腹が減るものです。芝生を駆け回りながら大いに学び、そして遊んだ腹ペコの皆さんを癒すのは、選りすぐりのフード&ドリンクたち!

 会場では羽釜で炊いた美味しいご飯も振る舞われ、八ヶ岳の伏流水を使用した「武の井酒造」さんの日本酒や、「八ヶ岳ブルワリー」さんのタッチダウンビール、「Q.G.coffee」さんのネルドリップコーヒーを片手に、「八ヶ岳ナポリ」さんの八ヶ岳ピッツァや、「らじっく」さんのくじら肉料理を美味しそうに頬張る皆さんの姿がありました。

 2日目の早朝には「白倉農園(URAYAMA)」さんの作るケミカルフリーの朝どれ野菜も並び、八ヶ岳の育む食の恵みを存分に堪能することができました!

 日中にめいいっぱい遊んで食べたら、夜は焚き火でまったりタイム。今回は初の試みでナイトシアターを設置し『ロードムービー「simplife」』の野外上映会を行いました。

 2017年公開「竹内 友一(たけうち ゆういち)」さんの自主制作作品で、「身の丈の暮らし」をテーマにアメリカ西海岸のタイニーハウス・ムーブメントのパイオニアたちを訪ねるロードムービーです。

 暮らしにも「身の丈」がある。さまざまな人の幸せのカタチや、コミュニティの在り方はどれも個性的なものばかりで、「ものを手放す」ことがたくさんの「自由」を手に入れる手かがりなのかもしれない。そんなことを考えさせられる作品でした。

 芝生に寝っ転がったり、お酒片手にまったりしたり、焚き火を囲んで語り合ったり、皆さん思い思いの楽しみ方でキャンプの夜を過ごしました。

 子どもたちはというと、あんなに遊んだのにまだまだ元気いっぱい(笑)。チルタイムな大人たちをよそに、花火や夜のお散歩に出発していきました。お腹が減ったら泣いて、途中で飽きて暴れて、そこらじゅう走り回って、疲れたらスヤスヤ寝てしまう。本当に子どもって自由なものです。

では、私たち大人は?

「オーガニックって、自由だ」

「オーガニックって何?」
みなさんはどう思いますか?

 イベント内では「本質的」という解釈も提示されましたが、この2日間様々なワークショップやトークプログラムを通して、様々な角度からその本質を探りました。ここで改めて一度意味を調べてみると、「有機栽培によること」との答えでした。では、そもそも「有機」ってなんだっけ?

「生命力を有すること。生活機能を有すること」

 「生命力=生きていこうとする力」、言い換えれば私たち生き物が本能的に持っている「生への欲求」とも言えます。生きるために「生活(くらし)」しなければならない。でも私たち人間は「どうくらすか」を選ぶ「自由」が許されていますよね。だってこの八ヶ岳の森や草花のような「自然」はそれを選べないから。

 自然たちは、生態系のルールと彼らの「生命力」に従いながら「やるべきこと」をやっている。それしか選べないのだから、それが彼らの「やりたいこと」なんだと思うんです。「やるべきこと」と「やりたいこと」が一致している生き方なんて、幸せですよね。

 「遊ぶ」と言う言葉には「見物や勉学のために他の土地へ行く」という意味があります。まさに子どもたちは遊び盛りです。知らない場所にいって、知らないことをやってみて、そこから自分の身の丈にあった「やれること」を学んでいる。さて、みなさん大人はどうでしょうか。子どもの時のように「見たこと聞いたことあるけどやったことないこと」にワクワクしていますか?それと同時に「なんでもやっていい」なんて思ってしまっていませんか?

 「くらし」の中にもまだまだヒントはあるのだと思います。まずは今日から遊んでみるのはどうでしょう。そうして色んなことを学びながら、自分や誰かに優しい「くらし」の自由やルールを見つけてみてはいかがでしょうか。


もっと「オーガニック(本質的)な自分」を紐解いてみませんか?
まだまだ自分の身の丈を決めるなんて早い。
だって私たちにはせっかく「自由」があるんだから。

【清里オーガニックキャンプ2023「地球と遊ぶ、くらしと遊ぶ」】にご来場くださった皆さん、本当にありがとうございました。また来年も、大自然八ヶ岳の「くらし」へ遊びにきてください!

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